エリート御曹司と愛され束縛同居
「おお、そうか。それでは……」

植戸様の表情が明るく輝く。

その時、副社長が少しだけ身体を反転させ、唇を硬く引き結んだ私をじっと見つめて言った。


「ですが私には心に決めた女性がおります」


低くはっきりした声が耳に響く。

綺麗な二重の目に真っ直ぐ見据えられて動けない。

その目からは覚悟と熱い気持ちが滲み出ていた。

植戸様は違和感を感じたのか、私に厳しい視線を向ける。

「彼女はまさか……噂になっていた秘書の女性なのか?」

この方にまで噂が聞き及んでいたのかと驚く。

「はい」

迷いなく言い切る副社長に、植戸様は苦虫を嚙み潰したような表情で私たちを見比べ、ふうと大きく息を吐いた。


「この女性が……君の大切な人なのか?」


「ええ、私には彼女以外の女性は考えられませんし、なにより大事な存在です」


そう言って過分な甘さを含んだ目が向けられる。ヒュッと息を呑んで、思わず目を瞠った。

なにか話さなくてはいけないと思うのに、頭の中が真っ白になって言葉が出てこない。


私が、遥さんの大切な人? 本当に?


「……岩瀬さんと仰いましたな。九重副社長の話は真実かね?」

確認するかのような厳しい声が響く。どうしてよいかわからず咄嗟に遥さんを見つめる。


「澪、正直に言ってほしい」


端正な面立ちに焦燥と切なさが滲んでいる。

長いまつ毛の下で熱を孕んだ目が私を釘付けにする。

向ける想いは本気だと全身で語っているようだった。
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