エリート御曹司と愛され束縛同居
あの日、言われた言葉が脳裏に鮮明に蘇る。


『お前への気持ちに嘘はないし、幼馴染みにも譲るつもりはない。俺を男として意識しろ。恋人役だなんて二度と言うな』


まさか今、この場所で返事をする羽目になるとは思いもしなかった。


どうしてこの人はこんなにも唐突なの? どこまで規格外で私を振り回すの?


取引先の自宅で告白だなんてありえない。不利益な交渉に終わるだけだし、私を選んでもなんのメリットもないのに。


不安に屈しそうになる私に泣きたくなるくらい甘い声が響く。


「俺は澪だけが欲しいんだ」


躊躇いを払拭するような台詞に背中を押される。胸の中がカッと熱くなり、認めたばかりの気持ちが溢れ出す。

こんな風に逃げ場を奪うなんて反則だ。


どこまで私を翻弄して好きにさせたら気が済むの? 悔しいけれど完敗だ。


震える手をギュッと握りしめる。

「……副社長の話はすべて真実です。私は九重遥さんをお慕いしています」

素直な気持ちを遥さんを見つめて伝えた。

愛しい人はその瞬間、花が綻ぶように相好を崩す。その表情が嬉しくてくすぐったかった。

やっと伝えたい相手に伝えられて、心に安堵にも似た気持ちが拡がっていく。

「……そうか……」

植戸様の気落ちした声が響き、ハッとする。

自分の気持ちに浸って満足している場合ではない。

反省し、慌てて声を発しようとすると遥さんが小さく首を横に振って引き留めた。
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