エリート御曹司と愛され束縛同居
当たり前のように言われて絶句する。


どういう意味?


「副社長が岩瀬さんを見る目は誰よりも甘くて、声もとびきり優しいでしょ。少なくともあんな視線を女性に向けている姿は誰も見た記憶がないわ」

その台詞にどう反応してよいかわからず、体温が急激に上がっていく。

「植戸様の奥様のご生家は有名な華道家なの。現在は奥様の弟君が家元をつとめてらっしゃって奥様もご息女様も師範代でいらっしゃると伺っているわ。桃子さんのお父様の職業は弁護士で桃子さんも現在法科大学院に通われているの。もちろん桃子さんも華道、茶道をたしなまれているわ」

「副社長のお相手にぴったりですよね……」

思わず溜め息が漏れる。

すべてにおいて敵う気がしない。

どうしてあの人が私を選んでくれたのか疑問しかなく、気の迷いと言われたら信じてしまいそうだ。

「なんの話をしているのかと思えば……岩瀬さんを落ち込ませてどうするんです?」

背後から声をかけられて振り返ると、真後ろに室長が呆れ顔で立っていた。

「室長、ですが事前に桃子さんについて伝える機会がございませんでしたので……」

突然同行を命じられ、植戸様については知識をある程度もっていたのだが、桃子さんについてはまったくといってよい程知らなかった。

是川さんは小さく息を吐いて困ったように言う。

「いいですか、岩瀬さん。あなたは副社長が自ら選ばれた方です。誰かと比べる必要はありません」

「……はい」

上司に返事をするが心中は穏やかではない。遥さんの真意が理解できない。
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