エリート御曹司と愛され束縛同居
本当に私でいいの? 本気で私を恋人にするつもりなの? 


桃子さんのように立派な所作も経歴ももっていないし、貢献できる力すらない私のなにがよかったのかわからない。

どうしたって比較してしまう。


「……あなたの視察に伺った日はとてもむし暑い日でしたが、急な大雨で気温も一気に下がっていました。視察だと悟られないよう少し離れた場所で社用車を降りて向かったのですが随分濡れてしまった」

室長が唐突に話し出す。

「受付にいたあなたは笑顔で清潔なタオルを差し出してくれました。驚いて辞退すると『皆様にお配りしておりますし、そのままでは風邪を召されます』と言いました。その後、訪問した人事部で出されたお茶は温かく、冷えた身体にはとても有難かった。あれはあなたの配慮ですよね?」

淡々と言われて驚きに目を見開いた。


どうして知っているの? そもそも私はいつ室長に応対したのだろうか?


そんな心中を察するかのように是川さんはフッと口角を上げた。

「人事部、総務部の部長に伺いました。人員不足の、不本意ともいえる状態で打診されたにも関わらず、あなたは真剣に受付業務に従事し、雨の日や暑い日にはタオルを来客に貸し出す等、積極的に取り組んでいたそうですね。天候や気温によっては温かいお茶を給仕するよう各部署に助言もしていたと聞きました」

それは来社されるお客様に、受付担当としてできる業務を精一杯したいと思い、始めた取り組みだった。
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