エリート御曹司と愛され束縛同居
「……でもそれは受付の皆が協力してくれたからで私の力ではありません」

「そうでしょうか? あなただから協力をしたいと思ったのではないですか? あなたにはあなたにしかできない力と魅力が備わっています。誰よりも副社長はそれをご存知なのだと思いますよ」

眼鏡のブリッジを押し上げながら、滑らかに話す上司に津守さんが同調する。

「そうよ。私も室長からその話を聞いた時、是非秘書課にきてほしいと思ったわ。佐久間くんに人材の相談をして、最終的にあなたに打診するよう是川さんに進言したのは私よ。今回の異動はあなたのこれまでの行いに伴う結果なのよ?」

「マナーやマニュアル通りの動きはある程度学んだり慣れればできます。けれど自分自身で考え、実行するのは簡単ではありませんし、一朝一夕でできるものではない」

胸が詰まって、じわりと涙が滲む。

仕事を評価していてくれた事実に胸がいっぱいになり声が出なくなる。

そういえば以前に圭太が私の推薦について教えてくれていた。あれは津守さんのことだったんだ。


「副社長がお呼びですよ」

泣きそうな私の背中を押すように有能な室長が穏やかに命じた。

温かな上司と先輩に後押しされて副社長室に向かう。

先程教えてもらった言葉はこれから先、この仕事を続けるうえで間違いなく私の指標になり、自信になると思う。

なにかに迷った時、落ち込んだ時はきっと今日の出来事を思い出すだろう。そんな気がした。
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