エリート御曹司と愛され束縛同居
「お前、今の状況をわかっているのか? 同棲だぞ? 将来どうするつもりなのか、家族として尋ねるのは当たり前だろう」

「そうかもしれないけど、今時一緒に暮らしている恋人同士なんてたくさんいるでしょ?」

「お前の親友の同棲条件は結婚前提じゃなかったか?」

……痛いところをついてくる。

亜由美の同棲をうっかり過去に話したのは間違いだった。

「……まだ付き合って半月くらいしか経っていないし、将来どうするの、結婚するの、なんて重すぎて聞けない」

「なんでだよ? 恋人なら遠慮なく言えるだろ?」

あっさり言い返してくる兄を睨む。

そんなデリケート過ぎる問題を簡単に口にしないで欲しい。

結婚は一生の問題だというのに、お互いをまだよく知りもしない状態で決断なんてできない。

植戸様のご自宅ではそれらしき言い方もされたが、あれはあくまでも桃子さんの話を断るための策だろうと理解している。

「一緒に生活してお互いの性格や考え方、価値観を知る場合もあるでしょ。それに遥さんは御曹司だし一存でなにもかも決められないよ。会社や家の繋がりだってあるんだから」

「そんなのはただの言い訳だろ。お前はどうしたいんだ? さっきから後ろ向きな話しかしてないがその恋人と結婚したいのか?」

そんな話をいきなりされてもわからない。

そもそも叶うはずのない恋が叶ったばかりで、相応しい女性になりたいと願うだけで既に精一杯なのだ。こんな状態で結婚話なんてできるわけがない。

言葉に詰まる私を見て、再び溜め息を吐いた兄はおもむろに自身の腕時計で時間を確認し、玄関に向かった。

「今のお前では話にならないし、同棲を許すわけにいかない。今日のところは時間がないから引き上げるが、後で圭太にも確認してまた連絡する」

「ちょっと待って、圭太はなにも悪くないし、まだ付き合ってるって報告してない……」

弁解する私を無言で一瞥し、兄は仕事に向かってしまった。

バタンと玄関ドアが重い音を立てて閉ざされた。
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