エリート御曹司と愛され束縛同居
『なにか悩んでいるなら教えてほしい。ひとりで抱えずに、頼ってほしい。誰かに後から聞かされるのは嫌だ』


言われた言葉が蘇る。

これも抱え込んでしまっているうちに入るのだろうか。でも私と兄の問題だし、恋人を巻き込みたくない。

今日の夜には、明日には、出張前には話そう、そう考えては言い訳をつくるという無意味な行動を何回繰り返しただろう。


結局、なかなか答えは出ず、かといって向き合う覚悟も持てないまま、アメリカ出張の日を迎えてしまった。

出張の同行者は是川さんで、今、私が副社長室を退室したらしばらくは会えなくなる。

「準備を確認して参ります」

書類を抱えた是川さんが立ち上がり扉に向かう際、思わず声をかけた。

「それなら、私が……」

「いえ、岩瀬さんはそちらの書類にサインをいただいて阪井さんに渡してください」

是川さんが抑揚のない声でそう言って、副社長室を辞した。


室内になんとも言えない重苦しい沈黙が落ちる。

そんな風に意識してしまっているのは私だけなのだろうか。

いつものように執務机で書類に目を通している彼の頬に長いまつ毛が影をつくっている。

どこから見ても完璧な容姿のこの人が恋人だなんて今でもたまに信じられなくなる。

傍らに立ち、しばらく離れてしまう好きな人の姿を盗み見る。

ただそれだけで気持ちが落ち着かない私はどれだけこの人が好きなのだろう。
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