エリート御曹司と愛され束縛同居
「……サインしたぞ」

ふいに低い声が耳に届き、焦って返事をすると副社長は既に立ち上がっていて、真向かいから書類を差し出していた。

「は、はいっ、いただきます」


……なにをしているの、仕事中なんだからしっかりしなくては。今日ミスをしてしまったらしばらく副社長は戻られないから困るのよ。


自分を叱咤しつつ、書類を受け取ろうと右手を伸ばすとグイッと引かれて広い胸に引き寄せられた。

大好きな香りに全身が包まれる。

大きな左手に顎を掬い上げられ、噛みつくようなキスをされた。


「……気が長いほうじゃないし、大事な恋人がなにか言いたそうにしているのを静観できるほど寛容じゃない」


キスの合間に降ってくる低い声には微かなイラ立ちが混ざっていた。


「自分から話すのを待つつもりだったが限界だ……澪、帰国したら覚悟しておけよ? 逃がさないからな」


物騒な台詞と突然の行動に頭が真っ白になって、瞬きしかできずにいる私の唇をもう一度強引に奪って、広い胸に閉じ込めた。

暴れだした鼓動はもう抑えようがない。


「……行ってくる。俺はなにがあってもお前を手離す気はないからな」


念押しのように言って、するりと腕をほどいた。

「見送りはここでいい、その可愛い表情を俺以外に見せるなよ?」

声を発せずにいる私に色香のこもった声で囁き、颯爽と部屋から出ていった。

執務机に視線を向けるとサイン済の書類がきちんと置かれている。


「……どうしたら、いいの?」

残された私は火照った頬を持て余し、書類をそっと手に取って呟くしかできなかった。
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