クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 けれど、五年前も亮の気持ちは無視して家の事情が大きく働いていた。今度だって、もしかしたら亮の意思は関係なく、強引に話が進んでいる可能性だってある。

 逆に言えば社会人になって会社を背負っている亮は、学生のときよりも先方を大事にしなくてはならない立場にあるんだ。

 勢いよく上半身を起こして、両手で顔を覆う。

 またどうにもならない事実を突きつけられるかも。現に桑名さんは父親伝いかもしれないが、レストランのコンセプトを知っていた。

 それに引き換え、私は――。

 様々な感情が頭だけではなく体の至るところまで駆け巡り、気分は最悪だ。

『だから、もう一度俺を選んでくれ』

 その中で不意に亮の言葉が脳裏に過ぎる。

 しばらくして私は心を決めた。そしてスマホの画面をタップし、今日の午後に予約できる美容室を探しはじめる。

 亮との別れをずっと引きずる中で、彼と再会して付き合うとなったとき、何度も自分に問いかけて確認した。

 以前とは違う。亮とは住む世界も違って、共に未来を歩むのは難しいというのも最初からわかっている。

 前と同じ結末を迎える可能性もある。けれど、それでもいいと彼のそばにいたいと今度は私自身で選んだんだ。
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