クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
「谷川さんみたいな考え方でいられたら幸せだろうね」

「先輩、もしかして馬鹿にしてます?」

 つい声に不機嫌さを乗せると亮はわずかに微笑んで誤魔化した。でも否定しないなら、きっとそうなんだ。張りつめていたものが少しだけ緩む。

「水族館は私の癒やしなんです。見ているこっちが幸せになるんだから、水槽の向こうの彼らは彼らなりに幸せかもしれませんよ?」

「希望的観測だな」

可哀想(かわいそう)だって憐れむ方がよっぽどエゴじゃないです?」

 間髪を入れず今度は遠慮なく物申す。先輩に対し、失礼かなと思う間もなく先に亮が笑った。

「そうかもしれないな」

 思わずその顔に見惚(みと)れる。すぐに余計な感情を振り払い、私は大きな水槽に意識を向ける。

 自分がカナヅチなのもあって、悠々自適(ゆうゆうじてき)に泳ぐ魚が羨ましい。昔から水族館が好きで、大学の近くにここがあるのを知り、年間パスポートを購入したほどだった。

 疲れを感じたり、ホッとしたいときにふらっと立ち寄る。そんな場所。館内は暗くて明かりもまばらだ。

 水族館自体が非日常で、余計にここでの亮との出会いは、どこか現実味が()かなかった。

 彼はどうして嫌いと言いつつここに……水族館に来ていたんだろう?

 その疑問をぶつけてみると、卒業論文のテーマが“水族館の経営戦略と地域にもたらす経済効果について”だからだと答えが返ってきた。

 ただ癒されに足繁(あししげ)く水族館に通っている私とは訳が違う。色々卒論の下調べをする中で、彼なりに思うところもあったのかもしれない。

 とはいえ、どうしてそもそも水族館なのか。そこまで深くは尋ねなかった。
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