クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
「メンダコとか可愛くありません? これ飼育するのすごく大変なんですよ?」

「あれ、可愛いか?」

 珍しく展示されているメンダコの水槽を見終え、私は亮に話しかけた。あれからこの水族館で度々彼に遭遇して今日で会うのは何度目か。

 私はひとりで訪れていて、彼もやっぱりいつもひとり。最初は近寄り難い先輩という印象だった亮とは水族館という場も手伝って、わりとすぐに打ち解けられた。

「可愛いじゃないですか。私、ぬいぐるみも持っています」

「タコをぬいぐるみにしているのか?」

 信じられないと言いたげな声と表情だ。

「はい。とても可愛くて、部屋に飾っているんです。今度、持ってきてお見せしましょうか?」

「まんまと商売に乗せられているな」

「いいんです。メンダコのために貢献しますよ」

 軽快なやり取りを交わして、私は大きく息を吐く。もうすぐ夏休みが始まる。その前に期末試験だ。

 ゼミの報告会もあって、なかなか忙しい。そんな他愛ない会話も、お決まりのソファに座って話した。

 ゼミでの亮はいつも穏やかでまとめ上手で、常に誰かに囲まれている。でもここで会って話すときは、どこか辛辣で冷たかったりもする。

 けれど素っ気なくも、私の海洋生物に対する豆知識やどれほど好きかという情熱話を彼はなんだかんだで聞いてくれる。

 そういうところは優しいと思うし、冷めた部分も彼の本性ならしょうがない。作っているとも裏切られたとも思わない。
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