クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 緊張して山寺先生の研究室の前で深呼吸する。そして意を決しノックをしようとしたときだった。

「先生はいないよ」

 勢いよく首を左に向ければ、どこか冷めた表情の亮がそこにいた。

「え? あ、もしかして先生、用事で出て行きました?」

 たしかに彼は先生が今、研究室にいるとは言っていなかった。早とちりしたと自分の行動を反省する前に、相手がさらに続ける。

「さっきの話は嘘だよ」

「嘘!?」

 反射的に大きな声で返してしまった。意味がわからない。亮がなにをしたいのかまったく理解できず、さすがに怪訝な顔で彼を見る。

 それを受け、さすがに亮も悪いと思ったのか、ばつが悪そうだ。

「谷川さんに話があったのは俺の方なんだ」

「へ?」

 (ほう)けていると、亮は軽く手招きし、近くにある空いた演習室に入るよう私を促す。試験期間中なのでどの演習室もほとんど無人だ。

 迷いつつも、とりあえず彼の後に続いて部屋に足を踏み入れる。そしてドアが閉まったタイミングで私から切り出した。

「あの、どうされました? 私、なにか……」

「さっきの誘い、断って」

「はいっ!?」

 こちらの言葉を遮り、彼の口から放たれた言葉に私は目を剥いた。誘いというのは海中水族館の件だよね?

 さっきの表情から一転し、亮は皮肉的な笑みを浮かべる。
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