クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
「えっと、水族館に、ですか?」

「この流れでそう取る? 谷川さん、付き合っている相手いないんだろ? それとも誰か気になるやつでもいる?」

 不機嫌そうに確認され、私はようやく彼の言う『付き合う』の意味を理解する。けれどにわかに信じられない。

「先輩、本気で……というか、正気ですか?」

 もっと頭のいい人かと思った。あ、それとも水族館に行ったら、別れるつもり? 私を納得させるための口実? でも、そこまでして彼になんの得があるの。もうわけがわからない。

 わざわざふたりで一緒に出かけるために付き合うって。順番が滅茶苦茶だ。混乱する私に亮は一歩近づき、しっかりと私を見据えた。 

「正気だよ。本気で言ってる。俺と付き合ってほしい」

 真摯(しんし)な声色が耳に届く。

 どうして彼ほどの人物が私に交際を申し込むのか。もしかしてからかわれている?

 裏を読めば、いくらでも悪い方向に捉えられる。ところが、彼の目はそれらをすべて吹き飛ばすほど真剣そのものだった。

 あれこれ言いたいことや聞きたいことを飲み込み、私は考えを巡らせる。

「でも私、付き合った経験とかなくてですね。なにをどうしたらいいとかよくわからないんですけど……」

 素直に白状すると、亮は笑った。いつもの意地悪なものではなく、どこか安堵したものだった。だってこの私の発言は、お断りではなく付き合う前置きみないなものだったから。

「わからないなら少しずつ知っていけばいい」

 それは、そうかもしれない。経験してみないとわからないことは山ほどある。でも……。
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