クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
「お、おはよう」

 彼以上に掠れた声で挨拶すれば、亮は眉をひそめてゆっくりと上半身を起こした。

「体調は?」

 まさか一番にそこを聞かれるとは思ってもみなかった。こうなると素直に答えるしかない。

「大丈夫。その……ごめんなさい」

 もうなにに対する謝罪なのか。亮は手で目元を覆い、長く息を吐くとゆるやかに顔を上げた。思った以上の近さに私の心臓が早鐘を打ち出す。

「謝らなくていい。戻ってきたら汐里がソファで寝ていて、起こしても目を覚まさないからベッドまで運んだんだ。そうしたら意識半分で『皺になる!』って主張してドレスを脱ぎだすから」

 説明され、なんとなく記憶が(よみが)る。たしかにドレスは新品で皺などを気にはしていたけど、寝ぼけながらも自分で脱ぐほどとは。

 おまけに脱いだその後、どうしてまた眠ってしまったんだろう。穴があったら入りたい。どこまで迷惑をかけっぱなしなの。

 肩を丸めて小さくなる。昨日とは違う意味で今すぐここから逃げ出したい。膝の上でぎゅっと握り(こぶし)を作っていると、ふと頬に温もりを感じた。

 目線を移せば、至近距離で亮と目が合う。

「本当に、ガード緩すぎ」

 呆れているような、心配しているような。声も表情も、体温さえも懐かしくて目の奥が熱くなる。それを悟られたくなくて私は失礼も承知で顔を背けた。
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