クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
「えっと、どこに向かってるの?」

「俺の部屋。薬を飲んで少し休んでいけ」

「えっ!?」

 おずおずと尋ねると端的な回答があった。そのタイミングで今日初めて彼と目が合う。

「打ち合わせをしていたところを抜けてきたから、すぐには送ってやれないんだ。とはいえ、さっきの男よりは信用できるだろ?」

「で、でも……」

 言い返そうとして、目的階にたどり着いたらしくドアが開く。ここでごねるわけにもいかず、私はとりあえず亮と共にエレベーターを降りた。

 どうやら先ほどエレベーターホールで打ち合わせをしていた集まりの中に(まぎ)れていたらしい。まったく気づかなかった。

 逃げ出したい。でも、会いたかったのも本当で相反する気持ちがぶつかり合う。あんな別れ方をしたとはいえ、彼を恨んだり、ましてや嫌いになったわけじゃない。

 もっと、こう……街中で偶然すれ違う程度でよかったのに。そうしたら、「久しぶり! 元気?」って笑顔で対応しようと決めていた。

 お互いに連絡先も交換せず、通りすがりに昔話にちらっと花を咲かせて、さらりとお互いの目的地へ進みだす。

 あの別れは、なんでもなかったんだって。ところが、何度もシミュレーションした再会劇は夢に終わり、現状はなんとも言えないシチュエーションだ。

『俺は、君の言う彼女とひどい別れ方をした“最低な奴”だよ』

 岡元くんに告げた亮の台詞を思い出す。どういうつもりなんだろう。どこまで聞いていた?

 頭と胸が同時にズキズキする。しばらくして彼はある部屋の前で立ち止まった。
< 7 / 143 >

この作品をシェア

pagetop