クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
「ここだ」

 カードに反応しロックがはずれる。ドアを開けると、部屋の明かりがぱっと点いた。中へと促す亮に、私は考えを巡らせる。

 思い描いていた再会ではなかった。けれど、二度と会えない可能性だってあったのにこのタイミングで出会ってしまった。

 私は唾を飲み込む。

「じゃぁ、少しだけ。お邪魔します」

 最初で最後かもしれない。そう言い聞かせて、私は再び彼と向き合うことにした。

 内部は想像以上に広くて、私は戸惑いが隠せなかった。入ってすぐにベッドがない構図にまずは驚いて、リビングからの眺めはさっきまでいた会場以上だ。

 街の人工的な明かりによって、ほんのり白っぽく照らされた夜が一枚の写真のように美しくて目を奪われる。

 この夜景も含めグローサーケーニヒは高級ホテルであり、普通の部屋でもそこそこ値段は張る。そう考えると、この部屋はいくらなんだろう。想像すると背筋が自然と伸びた。

 呆けている私をよそに、亮は冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出して、さっさとこちらに持ってくる。

「ほら」

「ありがとう」

 ぎこちなくも受け取る。角張ったボトルは珍しく、英字のラベルからすると、これもなかなか高級なものなのかもしれない。

 私は慌ててバッグからポーチを取り出し、いつも持ち歩いているお馴染みの頭痛薬を探す。

「薬を飲んだら、効くまでここで休んでおけ。あとで送る」

「い、いいよ。もう十分。これ飲んだらすぐにタクシーで帰るから。仕事に戻って」

 亮の眉がぴくりと吊り上がる。それを気にせず、薬を手に取った彼としっかりと向き合った。逸る鼓動を抑えて、私は早口で捲し立てる。
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