クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 土曜日の昼過ぎ、私はいくつかの荷物をまとめていた。大きさを揃えて段ボールに本をぎゅうぎゅうに敷き詰めていく。

 もう限界となったところで私は手を止めた。無心で入れたものの、これ運べるかな?

 冷静になり、軽く蓋をして持ち上げてみる。軽々とはいかないけれど、なんとか運べそうだ。

 四月からもここに住み続けるとはいえ、ある程度の荷物の整理は必要だろうと、大学の講義で使っていた教科書や卒業論文で使った参考文献などを片付けていく。

 すっきりした小さな本棚のスペースには、入社してから社会人として必要な本を揃えていく予定だ。

 わくわくする気持ちと裏腹に、無意識に大きくため息をついて首を軽く振る。

 どうしてか、先日亮と別れてから妙な胸騒ぎが私の中でずっと消えないでいた。次に会う約束をきちんとするべきだったのかもしれない。

 明日、会えなくなったことがここまで尾を引くとは思わなかった。

 なんでこんなにも不安なんだろう? 卒業が近いから? 社会人になったら今よりもっと会えなくなるから?

 自問自答を繰り返し、作業に戻ろうとしたそのときだった。インターホンの音が静かな部屋に響く。

 こんな時期に来客とは珍しい。荷物が来る予定もないし。まさか……。

 わずかな希望を胸に私は足早に玄関に向かい、ドアスコープ越しに窺えば予想していた人物ではなかった。ひとりの若い女性が目に入り、私は首を傾げる。

 訝しがりつつドアを少しばかり開けた。
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