クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 翌日の日曜日、予定が空いてしまった私は昨日に引き続き部屋の片付けや荷物の整理をしていた。

 けれど昨日の桑名さんとのやりとりが何度も頭に(よぎ)り、まったく作業がはかどらない。

 ため息をついては手を止めを繰り返し、時計の針は午後一時過ぎを指していた。 結局、亮から連絡はなく今日を迎えた。

 彼は今、桑名さんと会ってるのかな? 婚約者ってどこまで本当の話? もしも彼女と結婚するのが決まっているなら、なんで私と付き合ったの?

 ……なんで私になにも教えてくれなかったの?

 じわじわと真綿で首を絞められるような息苦しさに、私はじっとしていられず立ち上がる。

 外出予定もなかったので最低限の化粧に、Tシャツとジーンズ。お洒落さの欠片もない格好で私は外に飛び出した。なにかに突き動かされて駆け出す。

 外は春の陽気と呼ぶに相応(ふさわ)しい気候で、ただし花粉症の影響かマスクをしている人が多いのも今の季節ならではだ。

 気持ちはちっとも晴れないのに空は雲ひとつない快晴が広がっている。

 ゼルクって。グランドホテルゼルクのことだよね……?

 電車に乗って目的地を目指す。桑名さんの言っていたグランドホテルゼルクは駅近くで立地もいい高級ホテルだ。

 名前とおおよその場所は知っていた。中に入ったことはないけれど。
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