クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 それから思ったよりも早く連絡をくれた亮が私のアパートに迎えに来て彼のマンションで話し合うことになった。

 ぽつぽつと車の中で語られていく亮の事情を私はただ黙って聞いていた。

 桑名さんから聞いた亮に関する情報は(おおむ)ね正確で、ただ彼女との仲は親同士、とくに相手の父親たっての希望で仕事の関係上、亮のお父さんとしても無下(むげ)にできない相手だから定期的に会うように言われているだけだと。

 正式に婚約しているわけでもなければ、結婚する気もないと亮ははっきり口にした。

 彼の話を聞いても私の心は(よど)んだままだった。疑うつもりもないし、(だま)されたとも思わない。ましてや浮気されたとも。

 だったら、このぽっかりと穴が開いた感覚はなんなんだろう。

「どうして今まで私に話してくれなかったの?」

 マンションについてようやく私から質問する。迎えに来た亮はもうスーツを着ておらず、シャツに薄手のブルーのジャケット、細身のパンツスタイルといつもの私服姿だ。

「家の事情を知っている人間には色眼鏡で見られることも多かったし、面倒な思いも散々してきた。だから大学では自分の素性を話さないようにしていたんだ」

「付き合う彼女にさえ?」

 間を空けずに返せば、 彼は整った顔を歪めた。
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