幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
「僕は、人として欠けています。医者になんてなれるはずない……」
ずっと、今までも、葬式の時ですら思った。自分には感情が欠落している。
そんな自分は、『人を助ける職業』になんて向いていない。
ああいうのは、熱心で、情熱があって、優しい人間がなるものだ。
―――目の前の佐伯さんみたいな人間が……。
「医者に向いていないなんて、今、決めつけるべきじゃないよ。それに、私は、君は医者に向いてると思ったんだ」
佐伯さんは今までの優しい表情とは打って変わって、まっすぐな目で、声で、真剣にそう言った。
僕の心の底で、ずん、と重いものが落ちる音がした。
たった一言だったけど、僕は単純にも、こんな医者がいるのなら、医者になるのも悪くはないと思ったのだ。
この人と、同じ世界に足を踏み入れたら、どうなるのだろう。
これまでの自分とは全く違う世界。自然と胸がわくわくとした。
結局、その好奇心に勝てず、その後、勉強を続けて、佐伯さんからお金を出してもらうことはせず、自力で大学入試の成績優秀者に付与される奨学金を得て医学部に進学することができたのだった。