幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
そして時は過ぎ、自分は医学部の実習で患者さんと接することが増えた。
最初に受け持ちになった患者さんは高齢の女性・田中さんという方で、すい臓がんのステージⅣ。余命3ヶ月。
ここの実習は、あえて最初に、そのように余命宣告されている患者を学生にぶつける。
もちろん、患者さんは了承済みだが、感受性の強い学生ほど、これが一番つらいという。
田中さんは、僕のことを気にして、声をかけてくれる優しい女性だった。
家族はいないといい、だからか、余計に僕が病室に行くと嬉しそうに話しかけてくれた。
だけど僕は、そうされればされるほど、田中さんの気持ちに応えてあげることなんてできないと思い始めて、必要最低限だけの診察で、それ以外、病室に近寄ることは無かった。
僕は、なんとなく田中さんとの距離を最後まで縮められないまま、3か月後、田中さんは亡くなった。亡くなったのは、自分が勤務を終え、家に帰ったタイミングだった。
なんだか、一瞬胸が痛くなった気がしたが、その感情に後ろを向いたら、いつのまにか何も感じなくなった。
「初めて担当の患者さんが亡くなって、そこから這い上がれるかが勝負だぞ」
教授にはそう言われたけど、僕には、悲しいとかつらいとか、そんな感情はなかったと思う。
ただ見なければいい。感じなければいいと、ほかの学生と違って泣くこともなかった。
「あら、あなただけは大丈夫なのね」
看護師長が驚いたように言う。その言葉がやけに胸に刺さった。
他の学生は、みんな泣いて、立ち上がれないものもいたというのに。
やっぱり、僕には感情が欠落している。そんな自分が医者になるべきではないのかもしれない、と思った。
そんなことを思いだしたら、止まらなくなって……どうでもいいと自暴自棄になっていた。
告白してくる女性も多かった当時、手当たり次第と言うわけではないが、誘われたら、誘いに乗るくらいの感情だった。
女性と抱き合うことだって、愛とか恋とかそういうものではない。ただ、自分の欲を満たすだけの行為だと思っていた。
しかし、相手がそう思っていることはほとんどなく、僕にも同じように自分を愛することを求めてきた。そんなこと無理に決まっている。
女性は面倒だ……と思っていたころだ。桐本桃子に出会ったのは。