幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。

 その日、昼は健一郎が会議か何かの予定だというので、大学内にいても健一郎がやってくる心配がないと判断し、大学病院内の食堂で食べていた。すると、藤森先生がやってくる。

「いっしょにいい?」
「ふぁい、どうぞ」

 私は食べながら返事をする。その日、森下先生はというと健一郎とは別の会議が長引いて、あとで来るから先に食べていて、とメールが来ていた。

「うわ、三波ちゃん、昼からよく食べるね」
 そう言って、藤森先生は私のトレーに目線を落とす。目線の先には、大学病院名物、がっつり揚げ物C定食があった。

 それは、患者さんと言うよりは、一日一食しか食べることができない若い研修医のために考えられたメニューだ。時々、真壁くんも食べている。

「揚げ物ブーム到来なんです」
「ふうん」

 藤森先生はてんぷらそばを食べていた。てんぷらもいいな。今度天ぷらそばにしよう、となんとなく思う。また体重が右肩上がりの傾向だ。


 ふたりで食べていると、藤森先生は私をじっと見ていた。

「なんですか」
「健一郎、最近、またウキウキしてるよね。いつも以上に」
「多分結婚式のことだと思います」
「俺、招待状届いていないけど?」
「待っても藤森先生には届きませんよ」
「えー!」

 そう言って本当に悲しそうにするものだから、私は思わず吹いてしまった。

「うそですよ。嘘。まだ招待状まで手が回っていないんです」
「絶対出席させてよ。日程、先にメール頂戴。あけとくから」
「はいはい」

 私はそう言ってまた食べ始める。
 最近、藤森先生にも慣れてきたし、嫌悪感は減った。

 というのも、藤森先生が最近おとなしい、と大学内で非常にうわさになっているからだ。
 その噂は本当のようで、藤森先生は本当に変わった。


「どうしたんですか、最近。女性関係が奔放じゃないそうですね」
 私は藤森先生に聞いてみた。

「健一郎と三波ちゃん見てたら、一途な愛っていうのもいいなって思って。頑張ってみようかと思ったんだよ」
「それ、頑張ってするものですかね?」
「まぁ、確かに。いつの間にか気になってるものだよね」

 ふふ、と藤森先生は笑う。

「へぇ……。藤森先生に、そう思える人がいるんですね」

 よかった、と私は思った。色々と迷惑をかけられはしたが、仕事はまじめだし、患者さんに人気はあるし、基本的にはいい先生だと思う。



 その時、森下先生がやってきた。

「わ! 藤森先生」
 森下先生は、藤森先生を見て、明らかに眉を寄せて嫌そうな顔をする。
「やっぱり来たか」
と小さく藤森先生が嬉しそうにつぶやいたのを私は聞き逃さなかった。

(もしかして。もしかして……?)

 森下先生は低い声で、藤森先生に、
「私と三波ちゃんの大事な時間を邪魔しないでくれます?」言う。

 一瞬悲しそうな顔をした藤森先生を私は見逃さなかった。
 しかし、次の瞬間、藤森先生は楽しそうに笑うと、

「いいじゃん。俺も混ぜてよ」
「イヤですよ」

 ふたりの攻防が始まった。なんとなく以前より森下先生も藤森先生のことは嫌だと思っていないようなトーンだと思った。

(うん、これは藤森先生に勝ち目がなくはないかも……?)

< 214 / 227 >

この作品をシェア

pagetop