幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
 私は気を取り直して、もう一度真壁くんをゆする。

「真壁くん? 起きられる? タクシーで送る」
「ん……あ、寝てた。三波、ごめん」
「大丈夫よ。疲れてるよね、今のスケジュールじゃ」
「ありがとう」

 なんとなく、このやり取りが懐かしい。高校時代も、疲れきった真壁くんが寝ていた教室で、真壁くんを起こしたことが何度となくあったっけ。彼はあの時から頑張りすぎる癖があった。

(それで、その時私はそんな彼のこと支えたくて……それで……)

 そう思って、考えるのを辞めた。
 お酒の入っている頭ではおかしな思考回路になりそうだ。


 真壁くんとタクシーに乗り、真壁くんの家に向かう。

 真壁くんの家は小さなアパートの一階。真壁くんを部屋に入れ、近くの自販機で飲み物を買って、また部屋に戻ると、真壁くんの部屋の机の上に、それと常備している薬を一緒に置いた。

「ポカリと二日酔いの薬、ここに置いとくからね。アラームちゃんとセットするんだよ?」

 私がそう言って部屋を出ようとすると、寝ていると思っていた真壁くんに、急に腕をつかまれる。
 ドキリとして真壁くんの方を見る。すると真壁くんはきちんと目を開けていた。

「起きた?」
「待って。もう少し……聞きたいことがあって」
「仕事のこと?」

 私が聞くと、真壁くんは首を振り、起き上がって私をまっすぐに見た。

 掴まれた腕から、やけに速い鼓動が伝わってくる。それにつられているのか、自分の心臓の音もやけに速く頭に響いていた。

「本当に政略結婚で、まだ佐伯先生とキスすらしてないの」
「う……そ、そうだけど」
「ならまだチャンスあるのか?」
「……へ?」
 私が真壁くんを見ると、真壁くんは真剣な目で、私の目を射抜いた。

「ずっと気になってた。引退する時、三波は俺の告白を断っただろ……。あの時から佐伯先生のこと……好きだったわけじゃないんだな?」
「うん」

 私はきっぱりと言い、首を縦に振った。
 高校当時、私は健一郎のことを気持ち悪いとは思っていたが、本当になんとも思っていなかったのだ。

「じゃ、なんだよ。なんで断った? 理由をはっきり言ってくれ。そうしないと俺、いつまでも……」

 真壁くんの目は赤い。飲みすぎなのか、寝不足なのか、ほかの理由なのか……私にはわからない。つかまれた腕から伝わる体温が熱かった。
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