幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
やっと落ち着いて、個室から出た時、女性が待っていた。私は顔も上げずに、どうぞ、と言うと、突然腕を掴まれる。
驚いて顔を上げると、それは桐本先生だった。
「あなたが佐伯三波さん。健一郎の奥さんでしょ」
そう言って、上から下まで見られ、眉を寄せ目を細められた。
(何でしょう、その、残念なものを見る目は……)
「はじめまして。私、M大の桐本桃子です。その顔、私のこと、ご存知みたいね? 健一郎から?」
と聞かれて、思わず首を横に振った。
ゆっくり顔を上げると桐本先生は勝ち誇ったように微笑む。
「私、大学時代は東宮くんをしっかりお世話してました」
にこり、と笑ったその顔からは敵意がにじみ出ている……気がした。美人が敵意をむき出しにすると何とも言えぬ気迫が伝わってくる。
「あの……」
「そう言えば、健一郎、大学の資料室で待ってるって」
「え?」
「伝言してくれって言われたの。それに私も一緒に来てくれって」
(どういう事……?)
私が首を傾げると、「話があるって。私、ほらここの大学出身でしょう? 他の人より勝手もわかるし」
「そうですか……」
「行きましょう」
そう言われて押されるようにお手洗いを出る。
(一体何だろう……)
そう思うと、胸がドキドキした……。
(私だけじゃなくて、この人まで……元カノまで一緒に呼び出して、健一郎は何を私に言うつもりだろうか……?)