ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
ともすれば不安に押しつぶされそう。

領地没収どころか、殺される可能性だってある。



ううん。

嫌だ。

そんなの、絶対、嫌。

死なせたくない。

この、愛しいひとを守りたい。



ぎゅーっとしがみついたら、イザヤもまた、ぎゅーっと強く抱きしめてくれた。



……口に出さなくても、伝わってくる……。


その時が、いつかはわからない。

でも、確実に近づいている。

このオーゼラの国が消滅するときが。



***


硫黄の湖底温泉は、極上だった。

ただ、想定より成分が濃いらしい。

浴槽がわりの舟は、元の木の色がわからないほどに白くコーティングされていた。

そして、硫黄臭の強いこと強いこと!


オースタ島に着いても、硫黄の香りに包まれていることを自覚できた。



「……当分、臭いかもね……私達。」

くんくんと、自分の腕や髪の匂いをかぎながら、そう言った。


イザヤもまた長い髪を無造作にかき揚げては、しみついた硫黄臭に笑っていた。

「すごいな。ここまでとは。……しかし、浜辺の温泉と、こうまで違うとは思わなかったな。おもしろい。……先程そなたが見つけた温泉も、試してみたくなるな。」

「うん。湖底火山が、活発に活動してるのかもしれへんねえ。おもしろいね。ぽっかぽか。」

「……実際に噴火したら、おもしろいとは言ってられぬが、な。」

そりゃそうだ。

でもまあ、噴火なんて、めったに起きないだろう。

箱根で感じるような地震も山鳴りもないし。


「大丈夫やと思うよ。前兆ないし。……ね、いざや?」

鳥かごの中の伊邪耶を覗き込んだ。


伊邪耶は、眠そうに目をしぱたかせながら、ちゅくちゅくと何かおしゃべりしていた。



「前兆って……鳥が騒ぐとか、魚が上がってくるとか、か?」

そう尋ねながら、イザヤもまた伊邪耶の鳥かごを覗き込んだ。


鳥かごをイザヤの目の前に突き出して、私は首を傾げた。

「どやろ?うちの近くに火山ないから、わからんわ。……でも、活火山の近くのお宿に泊まった時、昼も夜も、めっちゃ地鳴りして揺れてたで。……ここ、靜かよね。」

「……そうか。……では、まだ、問題ないか。よかった。な。よしよし。何か感じたら、ちゃんと教えてくれよ。勝手に逃げ出すなよ。」

イザヤは鳥の伊邪耶にそう訴えた。

< 164 / 279 >

この作品をシェア

pagetop