ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
不思議。

言葉より、強く、深く、心に染み渡る……。

あたたかな愛情が、ひび割れた心を修復してくみたい。



綺麗な声に耳を傾けているうちに、私の嗚咽も涙も止まっていた。


顔を上げると、イザヤが微笑んでくれた。

つられて、私も微笑んだ。


イザヤは小さく頷くと、大きく息を吸い込んだ。

そして、今度は高らかに歌い上げた!



広い神殿にこだまし、響き渡る朗々とした歌声。

多分、オペラか何かの一説なのだろう。

ところどころ聞き取れる言葉もあるのだけど、何か、難しい。


でも、「エテルノアモーレ」って聞こえた。

たぶん、「エターナル」「アムール」とか「アモーレ」の、どこかの国の言葉バージョンよね?

直訳したら、「永遠の愛」……だよね?


とりあえず、私への変わらぬ愛情を誓って歌い上げているのは伝わってきた。



それから……イザヤは、私を穴が空くほど強く見つめて、はっきりと歌詞を伝えた。


「あなたのために、生きて、死ぬ」と。



たまらず、私はまたしても溢れ出る涙を抑えて、こくこくと何度もうなずいて見せた。


わかった。

充分、伝わったから。


ありがとう。






イザヤの気持ちに応えたくて……私は、クラヴィシンに向かった。

少し弾いて、音を確かめる。


調音大丈夫?


イザヤを見ると、大丈夫とばかりに力強くうなづいてくれた。



ほっとして、私は椅子に座って、鍵盤をなぞる。

わずかな前奏から弾き始めた。


本当はピアノ曲なんだけど、シューマンが妻のクララに送った歌曲集のなかの「献呈」って歌曲。

贈られたクララ自身が歌と伴奏を組み合わせて簡単にアレンジしたバージョンの「献呈」をイザヤの留守中にお稽古していた。


一応歌もあるんだけど……私にはハードル高すぎて。

それでもあまりうまくない、辿々しい私のクララバージョン「献呈」を、イザヤは目を細めてうれしそうに聞いてくれた。


最後の1音を置いた後は、笑顔で拍手してくれた。



私は、椅子から立ち上がり、イザヤに場所を譲った。




イザヤはクラヴィシンの前に座ると、しばし考えて……それから美しい音を奏で始めた。

ポロンポロンと優しいあまだれのような音から、突然強く激しくなり、また穏やかになる。


緩急が情熱を伝える……はは……さすがだわ。


なんと、イザヤは、私が弾いた同じ曲を弾いたのだ。

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