ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
しかも、段違いに激しく難しい、フランツ・リストのアレンジした「献呈」だ。

リストのクラヴィシンだけでもすばらしいのに、歌までオペラ歌手のように朗々と歌い上げるイザヤ。


♪あなたは私の魂 あなたは私の心♪

と、甘い言葉をつらね、後奏のアヴェ・マリアまで……。



……私のように準備してお稽古してたわけじゃなく、即興で、しかも楽譜もなしで……すごすぎ。

やっぱりイザヤ、吟遊詩人になれるわ。


演奏者としてのイザヤに心からの賛美を贈った。

そして、愛を伝えてくれる男性としてのイザヤに、……痺れた。



身体の奥が甘く疼いてるみたい。

……これって……子宮が反応してるの?

イザヤが欲しい、って。


……私、本当に順応早いのかな。


夕べというか、明け方に一回と、さっき舟の上で一回、抱かれただけなのに。

こんなにも、イザヤを求めてる。




たぶん、私の頬は紅潮していたのだろう。


クラヴィシンを閉じて、イザヤは、私の肩を抱き寄せた。

「精力剤の効力はもうないはずなのだが……また、そなたが欲しくなった。……かまわぬか?」



……そんなこと、聞かれても……恥ずかしくて、何も言えないよぉ。


私は、イザヤから目をそらすように俯いた。


一連の動作を、うなずいたと判断してくれたらしい。


イザヤの手が私の腰へと下がり、力が加わった。

誘導され、寝室へと導かれる……。


不意にイザヤが、振り返って大きな声をあげた。

「いざや!来い!」


どこからか、バタバタと重たい羽音をさせて、青い鳥が飛んできた。


鳥の伊邪耶は、まっすぐイザヤの肩に着地した。


……一応……飼い主は私のはずなんだけど……完全に、イザヤのほうに懐いてるみたい。

わかるのかな。

イザヤの優しさ。



……鳥にもわかるのに……シーシアには、どうして伝わらないんだろうね……。

ちょっと淋しくなったけれど、慌てて頭から追い出した。



***

寝室は、きれいに整えられていた。

朝方、けっこうぐちゃぐちゃに乱れたまんまにしてったんだけど……そっか……やっぱり、ちゃんと誰かが渡島して、準備してくれてるんだ。


ありがたいというか、申し訳ないというか……。




「よし、ここでよかろう。……また後で遊んでやるから、しばらく、おとなしくしているのだぞ。よいな?」

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