ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
私は頷いてみせた。

「そうね。ぱっと咲いてすぐ散ってしまうね。それが、日本の武士や軍人には、いさぎよい、って好まれたんやて。……私のお父さんも、桜が好きよ。一瞬だからこそ、尊いんやて。」


そう説明してから、おもむろに続けた。


「……これは、勝手な想像でしかないけど……イザヤの歌ってくれた曲、小唄って言って、たぶん、芸者さんとか……花街のひとが、お座敷でお客さんに唄ってあげた……宴会芸やとおもうねん。せやし、永遠の愛とかを歌うのは、却って、野暮というか……うーん……嘘っぽい?そらぞらしいんじゃないかな。」



イザヤは、口をへの字にしたまましばし沈思して……、それから、首を横にふって、息をついた。

「すまなかった。そなたへの想いを託すにはふさわしい唄ではなかったが……そなたの御父君の好みをけなすつもりは毛頭ない。もちろん、私も、ヴィシュナの花は好きだ。」


イザヤはそう言うなり、また別の……たぶん小唄を唸り出そうとした。

慌てて止めた。

「待って待って。小唄はもういいから。……ごめん。私、本当に、そっちの方面、疎いの。よくわかんないから。……それよりは、五線譜に音符の列んだ西洋音楽のほうが、馴染みがあるの。」


そう言ってから、自分の言葉に自嘲した。


「……自分の国の音楽なのに、よくわからないって……ちょっと、情けないねえ。」



日本舞踊を習おうと思えばいくらでも習えたのに、その気にならなかった。

さっちゃんと薫くんが、謡いだの仕舞だのを習ってるのに、私は、ただ見ていた。


……もし、元の世界に戻れたら……もう少し、自分の国の文化を学んでみたいかも……。


せっかくイザヤが三味線を弾いて小唄を歌ってくれても、何も響かない、何も感じられない自分が情けないよ。





しょんぼりした私の頭を、イザヤは軽くぽふぽふした。


見上げると、イザヤは微笑んでくれた。

「落ち込むことではない。音楽は、楽しむものだろう?……知らないことは、恥じることではない。楽しんでくれれば、それでよい。馴染みがある楽器だったのだろう?……ただ、懐かしめばよい。それで充分、私はうれしい。」


……優しい……。


じんわりと、心が温かくなり、ほろりと涙がこぼれた。

「あはは。涙、出てきた。……ありがと。……うん、三味線、懐かしい。よくわからないけど、うれしい。」
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