ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
私はイザヤに誘導されて、笑顔になった。


イザヤは満足そうに頷いた。

「ああ。それでよい。……前から思っていたが……そなたは、気負い過ぎだ。楽譜通り必死に演奏しても楽しくなかろう。多少間違えてもよいから、楽しめ。」



……まあ、そーゆーレベルじゃないからなあ……。


ピアノを習っても、一生懸命練習して、やっと楽譜通りに弾けるようになったら、すぐ、次の曲の練習に移って……楽しむって行程は皆無だったわ。


……イザヤがピアノの先生だったら、私、やめないで、今も続けてたのかもしれない……。


もちろん、それでも、イザヤのように自由自在には弾けないだろうけど。





「では、次は、どんな楽器がよい?何でもいいぞ。そなたの好きな曲を弾いてやろう。」


イザヤはそう言いながら、そうっと三味線を片付けた。


「……笛がいい。ガボーイ。」

私の元いた世界でいうところの、バロックオーボエを所望した。


「よし。リードを準備するから、少し待ってろ。……いざや。来い。」


イザヤは三味線を大事そうに抱え、鳥の伊邪耶を肩にとまらせたまま、楽器を置いている部屋へ行った。





独りになった私は、何となく、窓辺に立ち外を眺めた。

雨はもう上がっていた。

黒い雲が、ムードラ山脈のほうへと流れている。

その流れの早さは、まるで台風のようだ。


……と、雲だけじゃなく、眼下にも動いているものに気づいた。


見れば、イザヤの館の使用人が3人、島に上陸したようだ。

中には、執事さんもいた。




私は、窓から身を乗り出して、手を振った。

「おはようございま~す!わざわざ、来てくれて、ありがとうございま~す!館は、変わりないですか~?」



3人はぎょっとしたように立ち止まって、見上げた。


私の姿をみとめると、口々に何かをわめきたてた。


早口でまくし立てられて、聞き取ることができない。

よくわからないけど、イザヤに報告があるようだ。




タイミングよく戻って来たイザヤに伝えたら、顔をしかめられてしまった。

「……聞きたくない。もう少し、そなたと過ごしたい。」

「でも、お城からの呼び出しかもよ?」

「私は、休暇中だ。」
 

聞く耳を持とうとしないイザヤに対して、大仰に肩をすくめて見せた。


ムッとしたイザヤは、調整中のガボーイのリードを水をはったグラスに乱暴に放り込んだ。
< 178 / 279 >

この作品をシェア

pagetop