ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
イザヤは何も答えなかった。


馬鹿じゃない。

状況はわかりすぎるほど明白だろう。


執事さんの好意的な言葉が、逆に笑えてきた。



……カピトーリ側の情報を持ってない私には、黒幕がティガだという断定はできない。

でも、ティガの思うままにコトが運んでいることは間違いないだろう。


どうしよう……。

何の策もないまま、本当に館に……ティガの待つ館に戻らなければいけないの?


もちろん、このままこの島に籠城するわけにはいかない。

……ティガは、いずれ、この島を……この神殿を破壊した上で、手に入れるだろう。


八方塞がりだ。




「……もう一度、この島に、来ることは叶うだろうか……。」

イザヤは、神殿をぐるりと見渡して、そうつぶやいた。



私は、目を伏せて、思うままに答えた。

「二度と来られないってことはないと思う。……でも、神殿はなくなってるでしょうね。」



執事さんたちにはぴんと来なかったらしい。


でも、イザヤはため息をついて、もう一度神殿の隅々まで見渡した。




見かねて、私は提案した。

「……慌てて帰る必要もないし……神々とご先祖さまお一人お一人に、祈りと許しを乞いて回ってきたら?」



イザヤの瞳に新たな涙が光った。

「もはやそれぐらいしかできぬか……。自分が情けない……。」


「仕方ないわ。ご先祖さまの棺も神々の像も、とても舟に載らないし……島の土に埋めるのも無理でしょう?……あ、楽器は全部持って行こうね。」


「……ああ。そうしよう。……金に困ったときに、いい質草になるだろう。」


自嘲的なイザヤが痛々しくて、私の目にも涙が込み上げてきた。

でも泣きじゃくるのは我慢して、私は逆に笑顔を見せた。


「ううん。切り売りは、しない。……楽器は全部、交渉道具にできると思う。任せて。」


自信たっぷりにそう言ってのけたら、イザヤもつられたらしく、微笑んでくれた。


「……そうか。それは、ありがたい。……私だけではない……先祖代々蒐集(しゅうしゅう)してきたものだ。散佚(さんいつ)させてしまうのはもったいない。……まとめて、売るのか?……高価すぎるが……買い叩かれないか?」


私は、ちょっと首を傾げた。

「売れる?売れへんでしょ?」


そして、漠然と思い描いていた策を、はじめて口にした。
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