ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
胸を張ってそう茶化してみた。

空気を変えたかった。


でもティガは真面目に続けた。

「ええ。そのままでけっこうですよ。お行儀の悪いときは注意いたしますが、あなたの自由な発言と振る舞いが、私は好きですよ。」



……うぉっと。

失敗。


やっぱり告白に聞こえる~。


はは……。

頬が引きつる……。



「……だったらもうちょっと自由に行動させてくれても……。」

「護衛は必要です。」

「はいはい……。」

「はいは、一回がよろしいかと。」


「……はぁい。」



……そんな会話を繰り返すだけの穏やかな日々に飛び込んで来たリタの懐妊。


私たちは、この大きなニュースに浮かれていた。


リタの苦悶も知らず……。



***


てゆーか!

リタが妊娠したのって、あの夜だよね!?


イザヤとシーシアの初夜。



たぶん翌日からは、リタはずっとシーシアと一緒にいたはず。

ドラコだって、シーシアの護衛だけが仕事じゃないし、基本的にはカピトーリにいるんだし。


……あの一夜だけで、妊娠しちゃうんだ……。


すごいというか、うらやましいというか。



私もね、期待はしたのよね。

突然イザヤと離ればなれで暮らすことになっちゃって……せめて、お腹にイザヤの子がいれば淋しくないのに……って。


でも、破瓜の出血が止まって、程なく、ふつうに生理が始まってしまった。



あっさり、夢やぶれたり……。

淋しかったなあ。



……いいなあ、リタ。

私も、好きな人の赤ちゃん、ほしい。



イザヤぁ。

逢いたいよぉ。



星を見上げて叫びたくなった。


月のかけらの天の川がいつもと同じように輝いていた。

夜なら、迷わずどこにでも行けるんだけどな。


……夜明けまでにイザヤのいるカピトーリまで歩いて行けるものならば……。

まあ、無理だわな。


あーあ。


♪ 翼が、 欲しい。
 飛んで、行きたーい ♪

……八百屋お七の人形振りの義太夫を思い出した。



***


翌朝、ホットミルクを持って、リタの寝室を訪ねた。


「おはよー。元気?起きられる?」



リタの目がぱっちり開いた。


「……元気なわけないって……見ればわかるでしょ。」


けんもほろろなリタに、敢えての笑顔でミルクを手渡した。

「うん。どしたん?えらい痩せてしもて。ちゃんと食べてへんの?神宮って、やっぱり菜食とか粗食なん?……にしても、痩せすぎ。今日から栄養価高い美味しいお料理いっぱい食べてもらうからね。まずは、ミルク。飲んで。朝食も、いつでも食べられるよー。」
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