ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
リタは、そろっとミルクに口を付けて……小さく息をついた。


「……神宮が粗食とは思わないけど……やっぱりこの館は、贅沢だと思う。何でも美味しすぎる。」

「あ、やっぱりそうなんや。……ほなまあ、たっぷり食べて、ゆったり過ごして。とにかく栄養とって。元気になって。元気な赤ちゃん産んで。」


にこにこしてる私をじとーっと見て、リタは低い声で言った。


「私、ここに、出産するために来たわけじゃないから。」

「え。違うの?……え?」


戸惑う私にかまわず、リタは淡々と続けた。


「お腹の子を始末したら、シーシアさまのところに帰るわよ。」

「いやいやいや!何でそうなるん!?ドラコの子でしょ?産もうよ。」


驚く私に、リタは首をゆっくり横にふって見せた。


「……ドラコに迷惑かけたくない。……この先ドラコが結婚したら、正妻になるひとにも、そのひとが産んだ子にも迷惑だし……なにより、この子がかわいそう。……私のように、肩身の狭い想いをするのがわかってるのに……産めない。」



胸が痛んだ。

リタ……そんなふうに……。


いや。

あかんあかん。



ふるふると、私は勢いよく首を振って、リタを否定した。


「何でそうなるん?ドラコ、結婚せえへんゆーてるやん。百歩譲って、政略結婚したとしても、リタの子を可愛がらへんわけないやん!そもそも、リタ!私はリタがめっちゃうらやましい!!!そんな卑屈になる必要、ひとっつもないから!」


リタは、ぽかーんとした。

「……うらやましい?はあ?……そんなこと、言われたことない……。」


戸惑うリタに、畳みかけるように私は続けた。


「立場が違えば見える景色も、感じる想いも違うし。私は、リタがうらやましいよ。ほんとに。あのティガに溺愛されて、シーシアに妹として優しくしてもらって、イザヤだってリタのこと誉めてたもん。しかも、あのドラコとヤッて、赤ちゃんを授かったって?もう、羨望しかない。うらやましい。マジでうらやましい。うらやましすぎて、夕べ、泣いたわ。……私も、イザヤの赤ちゃん、ほしかった……。」


途中から、余計なことまで言ってしまって……感情がほとばしってしまった。


私は、ポロポロと涙をこぼしていた。



「……泣かないでよ……。」


つられたのか、リタの瞳からも大粒の涙がポタポタと流れ落ちた。
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