ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
「ごめん。つい……。ずっと、我慢してたから……何か……あああああ、だめだ、止まらない。……う……うぇ~~~ん」


言葉にしたら、行き場のなくなってしまったイザヤへの思慕が私を席巻してしまったようだ。

声をあげて泣いてしまった。




「……わかった。わかったから。……あんたがそんな風に泣くの、初めて見たかも。」

先に泣き止んだリタが私を宥めた。


「そうやっけ?」

「そうよ。かわいげなかったもん。まいら。」

「……そっか。そうかもね。……意地張ってたわけじゃないんやけど……。」



2人の会話をどこから聞いていたのか……いつの間にか入室していたティガが言葉を継いだ。


「気を張っていたのでしょう。」



……こわっ。


涙を拭い、鼻をすすって、私はティガに言った。


「ガールズトークに割り込まんとって。」



ティガは肩をすくめた。

「これは、失礼いたしました。……リタ。葛藤はわかりますが、お願いですから、授かった命をこの世に誕生させてあげてください。全力で、守りますから。赤子も。リタも。」


真摯な言葉に、リタは新たな涙を浮かべた。


でも、ぶんぶんと首を横に振った。


「……ダメ。ダメなの。……ドラコにも、シーシアさまにも……合わす顔がない……無理……。お二人に知られないうちに、なかったことにしたい……。」

「そんな悲しいこと言わんと……。」


たまらず、リタの上半身を抱きしめた。


リタは、嫌がることなく、しくしく泣いた。



ため息をついてから、ティガが口を開いた。

「既に、シーシアさまはご存じですよ。……先ほど、早馬が手紙を届けてくれました。リタとお腹の子を守ってほしいと、書いてありました。神の花嫁から、神の祝福を与えてくださいました。」


最後の言い回しは、何だか宗教的で、ちょっとよくわからなかった。

けど、リタは妙に感激したらしく、両手を組んで天を仰ぎお祈りを始めた。


……許しを得た……ってかんじ?



「さ。あまり興奮するとお腹の子が不安になりますよ。落ち着いたらお食事にいたしましょう。ヴィシュナの花の下でいただきましょう。」


ティガに導かれ、私達はゆっくりとブランチを楽しんだ。

湖に二つの太陽がふりそそぎ、キラキラ輝いていた。


***

リタは、日一日と元気になった。

青白かった肌が、薔薇色に染まり、溌剌とした美少女が戻ってきた。
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