ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
てか、今のじゃ、騎士としてのドラコしかわかんない。

どんなヒト?


「双子ってことは、姿はティガに似てるの?……ティガって、綺麗な顔立ちよね。銀の瞳も神秘的だし。」

髪はワカメにも見えなくもないけど。


……てか、目の前のイザヤなんか、マジでめちゃくちゃかっこいいけど、敢えてスルーしてティガを誉めた。



「ドラコは炎のような男だ。顔の造作は同じだが全然違う。」


そう言ってから、イザヤは胸を張ってつけ加えた。


「カピトーリの宮廷でも、オーゼラの王城でも、ご婦人方の人気を私と二分する男ぶりだ。」



……何だ、それ。

結局、自分がもてることを言いたかったのか?


てか、イザヤって……負けず嫌いよね。

小娘の私に対しても、対等に言い合ったり。

子供みたいなヒト。


……かわいいけどさ。


***


「ねえ?何か臭くない?」


やっとオースタ島がくっきり見えた頃、異臭に気づいた。



手を止めて、オールを少し上げて、キョロキョロする。

360度ぐるりと見渡せる湖上には、私と、鳥の伊邪耶と、この異世界の住人のイザヤだけ。


 
「……私は何もしてない。」

何の言い訳だか、イザヤはムッとしたようにそう言った。


「そうじゃなくて。この匂い。わかる?」


どこから匂うのだろうか。


私はくんくんと鼻をひくつかせて匂いを追った。
 
 
「ここ?」

異臭は湖面からしてるような気がする。

プランクトンの大量発生でもしてるのかしら。


 
首を傾げつつ、手を伸ばして水を掬ってみた。


え!?



「イザヤ!ここ!触って!ぬるいっ!」


私は、首を伸ばしてそわそわしてる鳥の伊邪耶が誤って湖に落ちないよう片手でそっと包んだ。


「ぬるい?」

怪訝そうにイザヤは自分のすぐ横の水面に手をつけた。


イザヤは湖面をじっと見ながらしばらく動かなかった。



ボートがゆっくりと波間を進む。



「今、きた。ここだな。確かに、ぬるい。」


そうして、手を湖水から引き抜いて指同士を少し擦った。


「ぬるぬるする。」

イザヤはそう言って首を傾げた。 

「ここだけ、水質が違う?」



なるほど。


「イザヤ。わかった。ここ、温泉が湧いてるんやわ。……てか、硫黄臭もするから、湖底火山でもあるのかも。すごーい!」



前に家族旅行で立ち寄った山陰には、同じように湖底から湧く温泉だけでなく、海底から湧く温泉もあった。

たぶんこの湖にも温泉が湧いてるのだろう。
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