ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
オースタ島は、小さなこんもりした島だった。

岩山ではなく緑で覆われた山の斜面に白い石柱や屋根が見えている。


「もしかして、この島って、神殿しかないの?」

「神殿と我が家の祖先の墓がある。私以外の者には何の価値もない島だ。……いや、私とそなた以外、だな。」

イザヤは意味ありげにそう言った。


「私?……何で?」


訝しんでそう聞いたけど、イザヤは上陸準備を慌ただしく始めた。


島から突き出た石造りの桟橋にボートを近づけると、ヒョイと飛び上がって桟橋の杭に器用にロープを縛り付けて停泊させた。

……鮮やかと言っても差し支えのない手際の良さが、何となく意外に思えた。


「慣れてるねぇ。」

感心してそうつぶやいた私に、イザヤが手を差し伸べた。


ドキッとした。

おずおずと、私は右手を差し出した。



「いや。そなたじゃない。先に、いざやを。」

イザヤはイケズではなく真顔でそう言った。


……あ、そうですか。

伊邪耶が優先なのね。

はいはい。


少しおもしろくない気分で、私の左手の中の伊邪耶をイザヤに預けた。


「よし。イイ子にしてろよ。」

イザヤはそう言って、伊邪耶を自分の胸元に入れた。

伊邪耶は暴れることも嫌がることもなく、目を細めていた。

……すっかりイザヤに懐いてるし。


「いざや、かしこいねえ。」

私はそう言ったけど、多少の嫌味がこもってしまったかもしれない。

 
鳥の伊邪耶はパチパチとまばたきしてから、

「マイラ。カワイイ。オチタ。」

と、お母さんの声と私の声を織り交ぜて言った。

 

プッとイザヤが吹き出して笑った。



ジロリとイザヤを睨む。




イザヤは胸元の伊邪耶をそっと撫でてから、私に言った。

「まいら。かわいい。落ちるなよ。おいで。」


かわいい……。

かわいい、って……。


頭が真っ白になった。


やばい。

ドキドキする。



硬直してる私に、イザヤは苦笑して両手を出した。


……両手……。


片手でエスコートされるより、何とも言えず恥ずかしいんですけど……。
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