ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
自室に戻ってすぐ、ノックなしでイザヤが入ってきた。

「クラヴィシンの調律ができたそうだ。」


うれしそうなイザヤに、今さら、ノックしろとも、女の部屋に入るなとも言えなかった。


……たぶん今後のために、ちゃんと文句言っとくべきだったのにね。


「調律?ずっと弾いてなかったの?」

「いや。すぐに音が狂うから、弾く前に必ず調律するのだが……そなたの世界では調律しなくていいのか?」


必ず?

しないしない。

うちのピアノなんか、1年に1回だもん。



「私の思ってるのと違う楽器なのかも。」

かなり不安になり、鳥の伊邪耶にそっと触れた。


「イザヤ、カワイイ……」

私の気持ちが伝わるらしく、伊邪耶も自信なさげな小さな声を出した。




案内された部屋は、いわゆる「サロン」?

装飾過多なゴージャスな広いお部屋に、凝ったテーブルセットやカウチ、ソファがあちこちに配されていた。


中央には、白い小さな……ん?

形はグランドピアノだけど、かなり小さくて、華奢だ。

これって、チェンバロ?

バロック楽器に見える。


鍵盤は、白黒逆で、奥行きは短く、幅はやや広く感じた。

……弾けるの?私に……これ。



「弾いてみよ。……こい。」

イザヤは私を鍵盤の前の椅子にいざない、鳥の伊邪耶を自分の肩に乗せた。


私は、黙って鍵盤に指を置いた。


……ピアノとは全く違う!

オルガンやエレクトーンとも違う、優しい気の抜けた音。


何か、お母さんみたい。

ちょっと楽しくなってきた。


私は短調の曲が好きなんだけど、この楽器には明るい曲が似合う気がした。


猫ふんじゃった、とか。

キラキラ星、とか。



「なんだ?その曲は。まいらに似て、変な曲だな。」

イザヤはそうけなしたけど、その表情は楽しそうだった。


「まともな曲って、あんまり覚えてなくて。んー……暗くていい?」


むかーし発表会で弾いた曲。

短調ばかりを好んだから、私のレパートリーは全部暗い。



「かまわぬ。弾いてみろ。」


イザヤに促されて、一番よく弾いていた曲を弾いた。



ラモーのタンブーラン。


ピアノで習ったけど、もともとはチェンバロの曲だしちょうどいいよね。



……うーん……暗い……

何てゆーか、ピアノで弾くより哀愁が増長されてる。

< 56 / 279 >

この作品をシェア

pagetop