ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
「こちらのオーゼラも含めて、カピトーリ周辺区域では、プロポーズの時に吟遊詩人を使者に仕立てて愛の言葉を美しい音楽にのせて送ります。楽器はとても高価なものですし、よほど恵まれた環境になければ音楽を学ぶことはできません。ですから宮廷音楽家はエリート専門職ですし、多少稚拙な吟遊詩人でも重宝されます。」

ティガはそう言って、イザヤを見た。


「あー。だから、イザヤ、モテるんだ。」


何か、腑に落ちたわ。

納得した。

確かに、イザヤは見た目はかっこいいし、貴族だし、騎士としてもたぶん普通に強そうなんだけど、何となく自己評価が高すぎるような気がして違和感を覚えていた。


でも、そういうことか。

音楽ができることで、必要以上にチヤホヤされて、ちょっと勘違いも入ってんじゃないかな?


いや、もちろん本当にモテるんだろうし、かっこいんだけど……割と、性格のほうは……微妙よね?

優しいとは思うけど……うーん……




「我が一族は代々、音楽的天賦の才に恵まれているからな。」

鼻高々なイザヤにリタが突っ込む。

「……代々、高価な楽器を蒐集して借金まみれなんでしょ?爵位も切り売りしてきたって。信じられない。」

「価値観の違いだな。」

イザヤはふんっと鼻で笑って、胸を張って言ってのけた。

「8代前の王の次男が公爵位を与えられたのが我が家の始祖だ。以来、幾つもの重複した爵位と領地を、この世の至宝と等価交換してきたのだ。……どうせ国が亡びたら爵位も領地も価値がなくなるだろう。私の伯爵位も不要だが、もはや買う物好きもいるまい。」


わー。

ダメなポイントが多すぎて、もう、突っ込むこともできない。


いや、でも、うちの親戚にも似たようなお家がある。

何百年も当たり前に特権階級でいると、イロイロ感覚が変わってはるんやろなあ。



「えーと、じゃあ、コレも高いの?コレも。」

弾いていたクラヴィシンとイザヤの携えているスクリプカを指さして、そう尋ねた。


「楽器は高額なものだ。そなたは、気にしなくてもよい。」

鷹揚にイザヤはそう言った。




けど、気になったので、翌日、ティガに聞いてみた。

「高いですよ。イザヤどののスクリプカは、この国で中流階級の家族が新しい土地を買って新築の家を建てることができるぐらいの金額でしょうか。まいらが弾いていたクラヴィシンは、ちょっと値段が付けられませんね。兵士3人の一生分の俸給でも足りません。」


……マジか。

「それは、確かに道楽すぎね。」


ティガがけっこうな嫌味を言ってたわけだ。


「てか、借金ってマジですか?……そんなところに、大事な従妹(いとこ)のお姫さまを嫁がせるの、嫌よね。心配して文句も言いたくなるわ。」


思わず憤慨してそう言ったら、ティガは苦笑していた。


「まいらのことも心配ですよ。」


……うん……私も……はは。


***

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