ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
びっくりするぐらい充実した日々が過ぎてゆく。

文字を覚えた私は、イザヤの書斎の本からもこの世界の知識を吸収し始めた。

中には、興味深い本もあった。

イザヤの先祖って、音楽論の本も書いてたんだ。

道楽の血筋は累々と続いているらしい……。


***


その日は、朝から汗ばむほどに暑かった。

こっちの世界でも夏が近づいてるのかな。



イザヤは毎朝なぜか玄関ホールでお稽古をつけてくれた。

外なら風もあるけど、ホール内は動くとすぐに蒸した。


汗だくになってしまった私に対して、イザヤはほとんど汗をかいていない。

まともに打ち合えるようになってきたとは思うけど……まだまだだわ。




「充分上達してると思うが。まいらは、ちょっと頑張りすぎだな。……明日は、オースタ島で一日中ゆっくり過ごすか。」

朝食の時に、剣術の上達を実感できないとこぼす私に、イザヤはそう誘ってくれた。


「行く!やったー!……イザヤ、やっとお休みできるの?」


前にオースタ島に連れて行ってもらってから数週間が過ぎた。

その間、イザヤは1日も休んでない。

……いや、もしかしたら登城するふりをして、どこかで遊んでる可能性もあるけどさ。



「ああ。おそらく数日後にカピトーリの遠征軍が我が国に到着するだろう。準備も整ったので、うるさくなる前に、ゆっくりしておきたい。」

イザヤはそう言ってから、私に言った。

「そなたのドレスが今日、届けられる予定だ。早速着てみせてくれ。多少、見映えもするようになるだろう。」

「別に今までのワンピースでいいのに。もったいない。」


イザヤが実はあまり裕福ではない、というか正確には、高額な楽器を買い過ぎて借金まみれと知って以来、私はなるべく迷惑をかけないようにと心がけている。

が、根っからの貴族のイザヤは、借金なんてどこ吹く風で、客人を迎える準備にかなりの散財をしているようだ。

私の服なんかどうでもいいのに。


「そなたが見すぼらしいと、私が恥をかくのだ。まいら。頼むから、ドラコの滞在中だけはリタの挑発に乗るなよ。それから、リタのこと、気をつけてやれ。」

イザヤの言うことはよくわかる。

わかるけど……ちょっと、テンションが下がった。

単に、私をかわいく着飾らせたところを見たい、と思ってくれてるわけなんかないんだけどさ。

どこまでも体面が大事なのよね、貴族って。

***
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