ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
「あれ?リタは?」

午前中の勉強に、リタは姿を見せなかった。


ティガは困った顔で、肩をすくめた。

「夢見が悪かったらしく、熱を出して寝込んでいます。今朝は食事にも来ませんでした。」


「リタが?」

さすがに驚いた。


相変わらず私には心を閉ざしたままだが、基本的にはものすごく元気でパワフルで食いしん坊なリタが?


「夢、ねえ。噂のドラコの夢でも見たとか?」


冗談のつもりでそう言ったんだけど、ティガは恭しくうなずいた。


「私も見ました。血にまみれたドラコの夢を。私よりもリタのほうが夢見の力が強いので、心が痛むのでしょう。」



……夢見の力?

そんなもの、あるの?



「それって、予知夢とか?既視感(デジャヴ)とか?」


「おそらくそのようなものでしょう。我が一族のものに多く見られる特異能力です。」

そう言ってから、ティガは微笑んだ。

「私は、昨年、まいらの降臨を夢で見ましたよ。今年になってから、リタも。……リタは吉兆夢を見たはずだったのに、まいらがシーシアさまにとってはあまり喜ばしくない存在になりそうなので、よけいに苛立ってるのです。でも私はリタの夢見の力を知っていますので、リタとまいらは仲良く助け合えると信じてます。リタに優しくしてやってください。」


ティガの言葉は、いつも意味深長だ。

今も、私は何となく引っかかりを覚えた。


気づくべきではなかったかもしれない。

でも胸騒ぎを覚えた私は、つい聞いてしまった。


「ティガにとっては、私はいい夢じゃなかったんやね。」



するとティガの表情が消えた。

銀の瞳が暗く光り、ざわざわと皮膚が泡立つ。
 


ティガは、一度目を閉じてから、ゆっくりと目を開いて私を見つめた。

目にかかった緑の髪のせいか、ティガの瞳が青みを帯びているように見えた。

悲しみと諦めの、暗い青。


「私はあなたが怖い。まいら。生命力の強さが、怖いのです。」


えー?

意味がわからない。

 
「いったいどんな夢見たの?生命力が強いって、ゴキブリか何かみたい。私、この世界を征服でもするの?」

ティガがあまりにも深刻なので、私は冗談で返した。



ふっ、とティガは、やるせなく笑った。

「私の夢見の力はあてになりません。忘れてください。」 


いやいやいや。

忘れられるわけないし。

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