ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
「え!いいよ!場所、教えて。独りで行けるし。」


どうせイザヤの領地内だもん。



***


お付きの女性に尋ねると、既にドレスは届いているらしい。

私は大急ぎで、バスローブタイプの簡単な服とタオル代わりの布を抱えて館を飛び出した。


砂浜の先にヨシだかアシだかのような背の高い水草が茂るエリアがあり、5分も歩くとガゼボ(西洋風あずまや)の屋根が見えた。

近づいてみると、壁と大きな窓で覆われていて、ガゼボというよりは明るい温室のようだ。


ドアを開けると、たまにボコッと泉源の上がってくる音が聞こえた。

部屋を覗いてみると、掘り下げた壺湯から湧き出た冷泉を箱形の浴槽に通しているようだ。

明るいし掃除が行き届いてるし、浴槽も脱衣所も綺麗。


さすが!

あ!

しかも、この窓も壁も、開く!

湖を眺めながら冷泉を楽しめるんだ。


素敵。



私は手早く脱いで、浴槽の冷泉を手桶ですくった。


……赤茶色い水にぷつぷつと小さな泡がいっぱい。

わぁ~い!


浴槽に入る。


うん、ぬるい。

気持ちいい~!



2つの太陽のうち、小さいほうの太陽がちょうど湖に沈もうとしている。

空は赤く、湖面はキラキラと金色に輝いている。

何て美しいんだろう。



「極楽極楽。」

生前おばあちゃんが、温泉でいつもつぶやいていた言葉が、勝手に私の口から飛び出した。


不意に家族が恋しくなった。


お父さん、お母さん、さっちゃん、薫くん……、どうしてるだろう。

元気かなあ。

さっちゃんの赤ちゃん、もう、生まれたかなぁ。


考えると、涙がこみ上げてきた。


バシャバシャと冷泉を顔にかける。


赤い冷泉は、血の池地獄みたいだけど、すくって顔に近づけると……うん、鉄分。

……のはずなんだけど……あれ?これ……血の匂い?

血ぃだけじゃない?

なんてゆーか、血生臭い匂いがする。


え?

何で?



何度も冷泉をすくってクンクン匂ってると、いきなり、目の前にヒトが現れた。


金色の鎧に返り血をいっぱい浴びた騎士だった……。


突如現れた金色の鎧の騎士は、全身のみならず剣からも血を滴らせていた。


彼も、私がいるとは思わなかったらしい。


湯壺に向かっていた歩みを止めて、じっとこっちを見た。
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