ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
……ざわざわと総毛立つ。


どうしよう。

ずっと剣術のお稽古をしていたけれど、もちろん、今は手元に剣がない。

まあ、練習用の刃をつぶした剣では勝負にならないだろうけど。



てか!

誰の血?

この騎士は何者で、誰と戦って来たの?



落ち着け。

考えろ。

敵だと決まったわけじゃない。

まずは相手を知るべき。



不思議と、怖いとは思わなかった。



自分が裸だという恥じらいも感じなかった。

というか、それどころじゃなかった。








「すまない。」

沈黙を破ったのは金色の騎士だった。



金のクローズドヘルムから漏れてきたのは、返り血に似合わない涼やかな声。

金色の騎士は踵を返して、私に背を向けた。



……紳士だ。




「あのぉ。どちらさまですか?」

私は首まで冷泉に浸かってから、そう尋ねた。



金色の騎士は、背中を向けたまま名乗った。

「私は、カピトーリの騎士ドラコ。この地の領主とは古くからの知己(ちき)だ。お嬢さんは、そのぉ……イザヤの……?」


ドラコ!

噂のドラコなんだ!


てか、今の。

私、イザヤの何だと思われてるんだろう。


……既に……側室ってか?




「はじめまして。ドラコ。お噂は、イザヤやティガからうかがってます。私は、(まいら)と申します。イザヤの館で、リタと一緒に、ティガから勉強を教わってます。」

敢えて、ティガやリタの名前を出してそう名乗った。


側室じゃないよー……と、訴えたつもりだ。




「勉強?……リタが?」

訝しげにドラコが首を捻った。


リタってば、どれだけ勉強から逃げてきたの……。


いや、そんなことより!

血ぃ!


「ドラコ!その血は?あなたの血じゃなさそうやけど……まだ乾いてないように見えるんやけど、どこで?誰の血?この近くで戦闘があったの?」

「ああ。これか。」

ドラコは、ビュンッと剣を振った。


「ちょ!お風呂場が血で汚れる!」

せっかく綺麗に掃除してくれてはるのに!と、ついドラコに非難がましく言ってしまった。


「……失礼した。」



ドラコは軽く頭を下げてから、たぶん鎧を脱ごうとした。

でもグローブとアームの間の蝶番が自分では取れないらしく、黙って格闘しているのが、見て取れた。


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