ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
ドラコは目を細めて小さくうなずいた。

それから、足の装備はつけたままなのに、器用にかがむと、手桶で冷泉を掬って、剣の血糊を洗い流し始めた。


「手伝います。」

私もまた、鎧のパーツに冷泉をザンブとかけて血を流す。


「源泉の温度が低いから血が固まらずに落ちてくれますね。……で、これ、どこで誰とやり合ったんですか?そもそも、ドラコ、オーゼラに到着するのは、まだあと数日先じゃありませんでした?」


そう尋ねると、ドラコは私をマジマジと見た。


「お嬢さん、いったい?どうして、そんなことまで知ってるんだい?」



そんなこと?

何を指しての「そんなこと」なんだろう。


血の固まる温度?

ドラコの率いる軍の進捗?


女のくせに、とか思われちゃうのかな?




どう答えようか躊躇ってると、ドラコが急に怖い顔になった。

視線は私を捉えてるけど、意識は聴覚に集中しているようだ。



誰か来たのかな?



「隠れて。」

ドラコはそう言って、私を湯壺の裏に隠そうとしたようだ。



「ドラコ。短剣、借ります。」

私は、ドラコの鎧の脚の部分に隠れていた短剣を手に取った。


もちろん短剣のお稽古なんかしてない。

けど、何もないよりマシなはずだ。



私は短剣のつかを両手で持って、ドラコの横に並び立った。



「……気の強いお嬢さんだ。」


ドラコは苦笑したけれど、すぐに表情を改めて歩き出した。



「武装してない男が、4人……5人……大丈夫だ。ここにいて。」

そう言うと、ドラコはびゅうっと駆け出し外へ出た。




「うわっ!」

「えっ!」



声が聞こえる。



たぶんドラコは私を巻き込まないように、1人で飛び出したのだと思う。

でも気になって、私も短剣を構えて、そーっと近づいて、扉から顔を出した。



砂浜で、ドラコが手を差し伸べて、尻餅をついたらしい男……ティガを、引っ張り起こしているところだった。



「ティガやったんや……」

ホッとして、そう言ながら、私も浴室から出た。



ティガもまた、私を見て安堵した。

「まいら。無事でよかった。」


「ティガは無事じゃないみたい。大丈夫?どうしたの?」


ティガは、パタパタと衣服の砂を払って髪を手櫛で整えると、連れてきた従者を先に館に帰した。



3人だけになってから、ティガがおもむろに言った。

「東の辺境から見慣れぬ一箇小隊が侵入したと、オーゼラの王城から知らせが来ました。まさかとは思いましたが、街道を避けて湖岸を通る可能性もあるかと、まいらを探しに来たのですが……」

ティガは言葉を切ると、ドラコを見た。
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