ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
と、私が苛立ったぐらいだもん。

当然、イザヤの目に怒りの火が灯った。

瞳の中に青い炎がゆらめいているようだ。




「ドラコ。正式な要請なら、オーゼラ王を通さないと、イザヤどのに失礼ですよ。」

見かねたティガが、やんわりとたしなめた。



ドラコは、ティガとイザヤを順に見て、慌てて頭を下げた。

「すまん。失敬した。」


失言に気づいて、己を恥じて謝るドラコは、やっぱり潔くてかっこよく見えた。


***

その夜は、急遽、晩餐会となった。

私は、イザヤの作ってくれた淡い水色のドレスに身を包んで食事をした。

わっかの骨が入ってるらしく、大きく広がったスカートは床をモップのように引きずるほどに長かった。

首や肩はシンプルなラインだが、腕の上部にかけて袖が優雅に膨らんでいた。

ロマン主義後期のドレスのイメージかな?

胸があると、もっと似合うんだろうなあ。



「なんだ。リタは来ないのか。」

たぶん嫌がらせも込めて、イザヤはわざわざそう尋ねた。


「高熱で休んでます。」

ティガがそう答えると、イザヤは、ふーんと興味なさそうに相づちを打ち、鳩の胸肉を切りながら言った。

「鳩はリタの好物だったろう。後で届けてやれ。」


「……ありがとうございます。」

ティガは一応そう言ったけど、失笑が伝わってきた。


ドラコは目を伏せて、黙々と食べていた。



イザヤの馬鹿。

何でわざわざ場の空気を悪くするかな。

確かに、鳩は絶品だけどさ。


リタ、どうしてるのかな。

後で、覗いてみようかな。


***

「イザヤ。笛を聞かせてくれないか。」

食後に、ドラコがそんなことを言い出した。


イザヤの表情がパッと輝く。

「笛、か。リードの準備ができてないから、ガボーイは少し時間がかかるぞ。フリェーイタでよいか?それとも、」

「こだわりはない。任せる。……戦場の夜、そなたの笛があれば兵士の慰めになるだろうと幾度となく思った。」

ドラコはそう言って、テーブルに肘をつけて両手を組むと、目を閉じて何か祈りの言葉っぽいものをつぶやいた。


すると、ティガも同じように祈り出した。



綺麗だなあ……。

精巧な等身大フィギュアのような2人がバシバシのまつげを伏せて祈ってる姿は、夢のように美しかった。


イザヤは祈る2人を置いて、いそいそと笛の準備をしに向かった。

……と思ったら、すぐに戻ってきて、私に言った。

「まいら。テレマン。」
< 72 / 279 >

この作品をシェア

pagetop