太陽と月
「そうだったんだ…」そう思った時にふと疑問が頭をよぎった。
口に出そうとした時、バタバタとマリ子さんが戻って来た。
「氷持って来ました!」
そう袋に入れた氷袋を陽介の顔に当てる。
「つめてっ!」と避ける陽介に容赦なく当てるマリ子さん。
「このままにしてたら、腫れますよ!男前が台無しになります!」
その時、玄関の扉がガチャっと開いた。
入って来たのは颯介だった。
私達を見ると一瞬驚いた表情になったけど、すぐにいつもの顔に戻り
「…何してんの?」と聞いた。
「いやー派手に転んだ!」とまた笑う陽介。
「…そう。マリ子さんご飯お願い出来る?」明らかな嘘に何も言わない颯介に少し苛立ちを感じる。
「…そっ颯介!」私が小さく叫ぶと
「何?」と冷たい目で私を見る。冷たくて全てをお見通しの目で…。
何も言えなくなった私に川口さんが
「椿さん、後の処置はお願い出来ますか?マリ子さんは颯介さんのご飯の準備をしてあげて下さい」そう微笑んだ。
「分かりました。では椿さんお願いします。痛み止めも置いておくので飲んで下さいね」そう言って颯介とリビングに戻って行った。
私はマリ子さんから氷袋を受け取り、陽介の顔に当てた。
「痛い…?」
「大丈夫だよ!」そうまた笑う陽介。
川口さんは陽介の頭をポンポンと叩き
「よく出来ました。頑張りましたね。では椿さん後はよろしくお願いしますね」と帰って行った。
川口さんに誉められた陽介は得意げに笑って見送った。
私はさっき疑問に思った事を聞く。
「ねぇ陽介…。陽介は強いんでしょ?何でやり返さなかったの?」そう聞いた。
確かに人数は多かったけど、陽介の強さなら何とかなったと思う。
陽介は少し間を置いて、
「俺は人を殴る為に武道をしてる訳じゃない。あそこで俺が手を出していたら、リーダー格の男をねじ伏せる事は簡単だったよ。さほど痛くもないパンチだったしね。」とクスクス笑い、言葉を続けた。
「…俺は大切な人を守る為に武道をしてるんだよ」そう言って太陽みたいな笑顔で答えた。