太陽と月
私は颯介の言葉を噛みしめながら、陽介の後を追った。


「椿、何だか嬉しそうだね」陽介に言われ、自分がほほ笑んでいた事に気付く。


「あっ、うん。ホラ、こうして陽介と出かけるの久し振りだから」


最低だ。私。こんなに簡単にも嘘をついている。陽介との散歩が嬉しくない訳じゃない。


でも今は、月が出たら颯介と会える事の方が嬉しく思う。


「俺も!」そう笑いかけてくれる陽介を見ると少しだけ胸が痛んだ。


2人で他愛のない話をしながらたどり着いたのは、初めて会った時に連れて行ってくれた河原だった。


丁度、夕焼けが出ていた時刻だった


「おっ!夕焼け!綺麗だね」


「うん、綺麗だね」そう言いながらも心の奥底では


颯介と見た、暗闇にポツンと小さな光りを放っていた月の方が綺麗だと思う自分が、心底最低だと思った。


「なぁ椿・・・」


私の少し前に立つ陽介が私に話しかける。前を向いているので、その表情は見えなかった。


「何?」


「今日の体育祭・・・颯介と何かあった?」そう聞かれて私はすぐに返事は出来ずにいた。


「いや・・・颯介の引いた紙って・・・あれ実は・・擦り替えられていたかもしれない」


陽介の言っている事が分からなかった。


だって、颯介が見せてくれた紙には


“大切な人”そう書かれていたから・・・。


「どういう事?」


「颯介が持っていた紙は、黄色だっただろ?借り物競争のお題は生徒会が決めていたんだ。黄色の紙は”造花”だった。初めは、椿って名前にかけてんのかな?って思っていたけどさ・・・。でも初めに木下の事呼んだだろ?木下の下の名前は美香だしさ・・・」


そう言って私の方を振り向く。


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