大人の女に手を出さないで下さい
オーダーしたお酒が置かれ、ボーイが去って行くと速水は自分のウイスキーをゆっくりと味わった。
目の前の青年が梨香子を本気で思っているのなら彼女を託してもいいと思っていた。
英梨紗の口ぶりからどんな困難も跳ね除けるつもりで真剣に交際を申し込んでるらしいが、きっと梨香子は素直に受け入れることはしないだろう。
彼女は昔から考えすぎるところがある。
慎重と言えば聞こえがいいが悪い方に考えが偏って身動き出来ず心労ばかり。
そのくせ、思い切りがいい時は誰にも相談せずにあっと言う間に一人で決断する。と離婚する頃の梨香子の行動力を思い出してついクスリと笑ってしまう。
ビールを飲み怪訝な顔でこちらを伺う蒼士に気付いて速水は余裕そうに背もたれに背を預け腕を組んだ。

「さあ、聞きたいことがあるんだろう?包み隠さず話すから何でも聞くといい」

少しムッとした蒼士はもう一口ゴクリとビールを流し込むと速水を真正面から見据えた。

「離婚の原因…あなたが浮気したからだと聞きました。なぜ、そんなことを?梨香子さんを愛していなかったんですか?」

「浮気…ね。梨香子のことを愛していたさ、心からね」

「ならなぜ?」

自分の左手を見遣り速水はその手を握った。
あの頃、梨香子との関係を壊したく無かった速水はあれは浮気なんかじゃ無いとずっと言い張っていた、しかし曖昧な言い訳に梨香子が納得するはずがなかった。
意地を張ってないで素直に謝れてたならあの時少しは違う結末があったのだろうかと思う事もあったが過ちが消える訳じゃないのだからきっと変わらないんだろう。
梨香子を差し置いて一瞬でもすがる彼女には俺しかいないと思った自分が馬鹿だった。

「そうだな…魔が差した、としか言いようが無いな」

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