大人の女に手を出さないで下さい

「魔が差した?」

怒りの込められた眼差しを受け止め、速水はそれでも優雅にウイスキーを口にした。
あれは悔やんでも悔やみきれない過ちで、隠し通そうとした速水はそれが取り返しのつかないことになるなんて思ってもみなかった。
浮気だけでなく嘘をつかれたことへの疑心が梨香子を離婚へと導いていたと後から気付いた。
所詮その頃の自分は浅はかなただの若造だったのだ。

「君にもあるだろう?ただ結婚していないから大事にならなかっただけで」

少しは身に覚えがあるんだろうか。蒼士は黙って険しい顔をする。

「あの頃は仕事をこなすのに必死で家庭なんてかえりみる余裕なんて無かった。英梨紗が生まれて子供が苦手なんだと初めて知った。そんな私を見限って梨香子は私を頼らなくなり家に帰っても英梨紗に掛かりきりで自分の居場所なんて無いと思っていた」

「そんなことないだろ?梨香子さんは…」

「そう、そんなこと無かった。梨香子は毎日私の帰りを待っていたし頼りにしていた。あの時寂しかったんだと言われて初めて自分は思い違いをしていたんだと知った。
相手の彼女に相談に乗っている間に自分の存在意義を彼女に見出そうとしていた愚かな自分に気付かされた。
くだらない自尊心の為に一番支えが必要だった梨香子を傷付け裏切ったことは今でも悔やんでいるよ」

< 101 / 278 >

この作品をシェア

pagetop