大人の女に手を出さないで下さい
弁護士のくせに情けない話だろう?と自嘲めいた笑みを溢した速水。
蒼士は苦虫を噛み潰したような顔をして黙ったまま速水の左手を睨んでいた。

「やり直そうとは…思わなかったのか?」

やっとの思いで絞り出したような低い唸り声に心底聞きたくないが聞かないと収まらないという蒼士の心情が見て取れる。逆に速水は指輪を目の前に心は凪いでいた。

「やり直そうと思っていたさ。ただ、信頼を壊すのはあっという間でも、取り返すことは容易でなかった。今の梨香子を見ればわかるだろう?私達の間にもう愛はない」

「ならなぜ、思わせぶりな事を言うんだ?なぜ今でも指輪をしている?」

「指輪は…自分の戒めの為に付けている。梨香子が幸せになるまでは取るつもりはない。例え愛情は無くても家族の絆はあるんだ。今までずっと英梨紗を通して二人を見守ってきた。変な男に捕まって梨香子が不幸にでもならないか心配するのは当たり前だろう」

「…じゃあ、思わせぶりなことを言ったのも挑発的な態度をとったのも俺を試す為?」

「そういうことだ。さあ、今度は私の質問に答えてもらおう」

なんとなくそうじゃないかと思っていた蒼士が黙ると、速水は両手を組みテーブルに肘を掛けた。
前かがみになったその体制から注がれる視線は鋭く、蒼士は真顔で対峙した。

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