大人の女に手を出さないで下さい
憂鬱なまま仕事を終えて従業員出入り口から出ると、思ってもみなかった人物が立っていて驚きおののいた。

「なんで…こんなところにいるのよ」

「お疲れ。たまには二人で食事に行かないか?」

「嫌よ、英梨紗が待ってるし」

「英梨紗にはママをかりると言っておいた。英梨紗も友達といるようで帰りは遅くなるそうだ」

「え…」

待っていたのは英隆で、スラリとした長身に眼鏡姿は知的でクールな印象は、年をとっても相変わらず。今でも女性はほっとかないわよねと他人行儀な事を思う。
さあ行こうと有無も言わさず連れてかれて強引なのも相変わらずと梨香子は小さくため息をついた。

連れてかれたのはシックな雰囲気漂うレストランバー。
英隆はよく通ってるようでこれが美味いんだと梨香子に断りもなくいくつか頼んだ。
運ばれて来た料理は魚介のトマトクリームパスタやバーニャカウダ、ローストビーフなどどれも梨香子が好きなものばかり。
きっとわざとだろう。未だに好みを覚えていたのかと思うとこそばゆい。
英隆はそのことには何も触れず注がれたワイングラスを持ち上げ乾杯とグラスを合わせた。

「梨香子、何か悩んでることあるんじゃないか?」

「ふぇ?…んん…なんのこと…?」

特に会話もなく食事を始めて、梨香子がローストビーフを口にした時英隆が徐に質問してきた。
なんてタイミングの悪い…と思いつつ急いで咀嚼し質問を返した。

「三雲副社長のこと。久々の恋愛に戸惑ってるんじゃないか?」

「なんでそんなこと…あなたには関係ないでしょう?」

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