大人の女に手を出さないで下さい
店の閉店作業を終えて外に出るとまだ蒼士は来てないようで駐車場前で待っていた。
冬のように冷たい空気で吐く息が白い。
手を擦り合わせ息を吹きかけながら梨香子は思っていた。

今日蒼士くんに告白しよう。

不安や懸念は全て受け入れる覚悟で梨香子は決心した。
幸い自分の周りの人達は好意的に受け止めてくれるらしい。
さっきもすれ違うスタッフ達に挨拶すると頑張れとでも言うように拳を握って笑っていた。
なぜ急にそんな感じになったのかわからないけども嬉しいと思う。
でも待てよ?と梨香子はあることを思い出した。

『親父が本気で梨香子さんの事を想ってるなら、親父が梨香子さんを幸せにしてやってくれ。そう蒼士に言われました』
敏明の言ったことが本当で蒼士は本気でそう思っていたらもう梨香子の事は諦めたのだろうか?
今日はもしかして梨香子に別れを告げるために会いに来るのかもしれない。
こっちはやっと決心したのに敏明と幸せになってほしいなんて言われたらショックだ。

「急に不安になってきた…会うのが怖いな…」

冷えてきたのか不安からか体がぶるりと震えて自分を抱くように両腕を擦る。
ここは一旦会わずに帰って出直そうかと逃げたい衝動に駆られた。
そこに車のライトに照らされ目を細めると見慣れた白いセダンが駐車場に入ってきた。
蒼士の愛車だとわかってもう逃げられないと観念する。

「遅くなってごめん」

「あ…ううん。久しぶり蒼士くん…」

颯爽と車から出てきた蒼士に梨香子は言葉が詰まる。
なぜだろう。久しぶりに会ったせいか蒼士がいつにも増して素敵に見える。
蒼士と目が合って耐えられずに逸してしまった。
今までときめかないように自分を抑えていた反動かもしれない。

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